示談成立までの歩み その5 「クレーム」




2010年7月9日に弁護士事務所を訪ねたとき、

産科医院側に対して、「損害賠償請求書」を提出したと

その文書を提示されました。





その文書は

1過失の内容

(1)説明義務違反

(2)助産師・看護師に対する教育・指導義務違反

(3)鑑察義務違反等

2損害額

(1)将来の医療費、介護費等

(2)後遺障害慰謝料本人分

(3)後遺障害慰謝料両親分

(4)後遺障害による将来の逸失利益

3まとめ 







で構成されていて、

最初に提出した事の次第を書いた紙と

「事故の時系列」、「精神的苦痛」の手書きの文書のみで、

的確に私達の気持ちを文章に表現してくださっていて、

さすがプロだと感心し、とてもありがたく思いました。





特に、1の過失の内容(1)説明義務違反の中で、





『事前にきちんとカンガルーケアのリスクの説明があったとして、

仮にカンガルーケアの実施に同意したとしても、

説明によってリスクをきちんと認識しえたのであるから、

子の異変に気づいたときは、たとえ助産師らがこれを軽視して

「大丈夫ですよ」と答えるだけの対応しかしなかったとしても、

母親はこれに納得せず、さらに適切な対応をするよう強く要求したはず』





また、助産師についての見解は、

弁護士さんは全責任は院長にあるとし、

私達とは異なっていましたが、私達の意見を反映してくださって、





1の(2)助産師・看護師に対する教育・指導義務違反の中で、





『助産師は母親が再三異変を訴えても、危険性の認識・判断ができず、

浩太郎君をきちんと見もせずに軽々と「大丈夫ですよ」と答えたのみで、

何らの対応もせずに放置してしまったのです。

また、カンガルーケアのリスクや対処法については、

助産師向けの雑誌にも特集記事が掲載され、警告されていたのですから、

貴院の助産師にも責任があったと思われますが、

そうだとしても貴院の責任の重大さを左右するものではありません。』





これらの文言を入れてくださったことにも、いたく感謝しました。





まとめの欄には、私が書いた「事故の時系列」と「精神的苦痛」も

読んでもらえるように添付したと書かれてありました。



2の損害額については、

(1)は実質負担金(実際にかかった費用)

(2)、(3)は産科医療補償制度や今までの裁判事例を参考にされた額、

(4)は交通事故で被害者が生存された場合の算出の仕方と同じのようですが、

これはあくまでも要望であって、

それが認められるかどうかは、交渉次第だということでした。





また、浩太郎は6ヶ月を過ぎたとき、

既に脳原生運動機能障害・呼吸器機能障害の症状固定と診断されており、

障害者等級1級を認定されていましたが、

赤ちゃんの場合は、症状が固定しないとのことで、

3歳になるまでは損害額の算出は据え置き、

もしも3歳までに死亡した場合には、

その死亡時に算出するとのことでした。

これは見方を変えると、3歳までに死亡すれば、

現段階で将来の損害額を算出した場合、

余分な実質負担金額を賠償しない為の措置ともとれます。





ここにも今の日本の医療の問題点が潜んでいます。

医療事故でなくても、蘇生をして命はとりとめたけれども、

医療者はその患者の命が長くないこと、或いは不安定なこと、

本人や介護者にも過大な心労苦を与えることを知りながら、

世の中に問題提起することなく、上手にオブラートにくるみ、

賠償金の支払いだけは最小限にくい止めようとしていると見えないでしょうか?





「医療事故に遭い介護状態になり、その後は介護難民になる。なんか変です。」

医者は救命したと思っているかもしれませんが、

こんな状態で救命されても…、医者の自己満足でしかないような…。」





これは奥様を手術時のミスで昏睡状態にされ、

医師からこのままでは…と、その後、延命処置をほどこされ、

結果、植物状態になられ、以来4年以上も介護をされている方の言葉です。









私達は、浩太郎を自宅で介護しないことを、

冷たい親ではないかと自分達を責め、悩みましたし、

一生涯、病院で過ごさなければならない浩太郎を不憫に思いました。

長崎県では、2歳以上にならないと受け入れてもらえる施設はないと

医師から説明され、障害者の申請をして、手帳をもらい、

療養型施設への申し込みをしても、

他にもたくさん待っている人がいるとのことで、

待機番号は49番目でした。

2歳を過ぎてもいつ入れるのかさえわかりませんでした。





これらの事実は、医療者にとっては当然、承知のことと思いますが、

一般市民はこのような事に直面して初めて、

さまざまな問題を突きつけられます。





「蘇生だけをして心臓は動いているけど、それ以外は

重度の後遺症が出てしまい、介護者にも過重な苦悩を与えてしまう

そういう今の医療の状態を

『ブレーキのきかない特急列車』と言われているそうです。」





これは、私達と同じ被害に遭われた方の言葉です。









確かに医療技術の発達や医師の方々のご尽力により、

以前は助けられなかった命が、助けられるようになりました。

ですが、それと共にさまざまな問題があることを、

一人の誠意ある医師の胸の中だけで葛藤するのではなく、

広く世の中に公表し、

社会全体の問題として考えていかなければならないと、私は思います。





弁護士さんから「損害賠償請求書」を提示されたとき、

私達には事前に一切の説明はなく、驚きましたが、

損害額や内容について不服はありませんでしたので、

弁護士さんはたくさんの案件をかかえて忙しいのだろうと推察しました。





そして前回(参照 示談成立までの歩みその4)申し入れた

医師から説明をしてもらいたいという要望に対して、

相手側の弁護士と産科医院の院長はそのつもりでいるのだけれど、

夫が立ち上げたHPの医療事故調査委員会の調査結果(その1,その2)

の内容について、医師会からクレームがきていて、

その医師からの説明の件が難航していると聞かされました。





「過失を認めるから金ですませろっ」

(参照 医療事故調査委員会の調査結果 その2)



こういうことを言う人に何を説明してもわかってもらえないのではないか





「示談交渉が成立しても、

助産師だけは、刑事告訴できるか弁護士の先生に相談したい」

(参照 医療事故調査委員会の調査結果 その1)



刑事告訴をするのなら、示談に応じる必要はない



と言っているというのです。



医師会側にしてみれば、

賠償責任審査会で審査して「有責」との結果を出し、

きちんと手順を踏んでいるのに、

不服を言われるのが、納得いかないのでしょうか?





私達は、何が、どう有責なのかが明かされないこと、

助産師が何の責任も問われないことを問うているのですが、

「賠償責任審査会」が単に損害賠償をする必要の有無を

審査するための組織であるから、

医師でありながら、事故の原因が追究されないことに、

何の疑問も持たれていないことが、

如実に現れていると思いませんか?





そして弁護士さんからは、

一般の人の中には、

お金目的で医療に難癖をつけてくる人もいる、

そう思われないためにも、

また今後の示談交渉にも影響しかねないので、

HPを自粛した方がいいのではないかと言われました。





医療事故の被害者はなんと虐げられていることでしょうか!

私達は悔しくて仕方ありませんでした。





この時、もはや医師は聖職者ではなく、

ご自分達が特別な待遇であることを、特別な人間と勘違いし、

一般人の意見に耳を傾けることができず、

何が問題なのかにも気づかないほどに分別を失くしていると思いました。





その時の思いを

賠償責任審査会については

9.賠償責任審査会とは?

に掲載しています。