カンガルーケア中のケイレン・呼吸停止は「低体温⇔低血糖」が原因
■「低体温⇔低血糖」のメカニズム
@空調設備が整った日本の寒い分娩室(24〜26℃)でカンガルーケアをすると、
赤ちゃんの体温下降は促進され、低体温から恒温状態への回復に時間を要す。
恒温動物(赤ちゃん)にとって長時間の低体温は非生理的(病気)である。
生命維持の安全を司る人間の自律神経は低体温では本来の機能をまともに
発揮する事が出来ないからである。
A寒い分娩室で、生後30分以内に、長い時間、カンガルーケアをすると、児は低血糖に陥り易い。
赤ちゃんは低体温から恒温状態に体温を回復させるためには通常より
多くのエネルギー(糖分)と酸素を消費するからである。
B特に、高インシュリン血症の新生児を寒い分娩室でカンガルーケアにすると、
「低体温⇔低血糖」の悪循環が発生する。
高インシュリン血症児は妊娠糖尿病の母親からだけでなく正常妊婦からも驚くほど多く生まれる。
当院の正常妊婦145人中、20人(約13%) が高インシュリン血症児であった。
C低血糖が進むと熱産生が抑制され、低体温から恒温状態への自然回復は困難となる。
人間が低血糖になると筋緊張が低下し、産熱量が著しく減少するからである。
■ケイレン、心肺機能停止のメカニズム
D「低体温⇔低血糖」が進行すると恒温動物である人間の体温調節機構は機能マヒに陥る。
低血糖児は恰も体温調節中枢が欠如した無脳児と同様の体温変動を示す。
この際、糖水・人工ミルクなどのカロリー補給や保温そして酸素投与がなければ
ケイレンなどのヒヤリハット、事故(呼吸停止⇒脳性麻痺)はいつでも起こり得る。
新生児の体温調節に関する研究を始めた時期(1981年)に、
偶然にも遭遇した低血糖症の一例を紹介します。
母親に糖尿病などの合併症もなく、児は3036gの正常満期産児で、
分娩中・分娩直後の低酸素血症はありませんでした。
児は通常の室温(24〜26℃)で管理し、
分娩直後から中枢/末梢深部体温と心拍数を同時にモニターしました。
この症例には体温異常が認められ、生後2〜6時間目に
中枢深部体温と末梢深部体温が並行して下降していました。
中枢深部体温が生後4時間目に36℃以下に下降したにもかかわらず、
産熱亢進/放熱抑制のための体温調節機構が作動していません。
心拍はサイレント(平坦)であり、啼泣・体動もない静かな状態が持続しています。
この体温変動の特徴は、中枢神経系を欠いた無脳児の体温の変動と似ていることです。
体温の異常に気づき血糖値を測定すると8mg/dlと極めて重度の低血糖症でした
。
速やかな治療(糖水の経口摂取と保育器内収容)により児は後遺症を残すこともなく回復しました。
体温の測定中でなければ異常(低血糖症)に気付かず、
脳に重篤な後遺症を残した可能性が高い症例です。
新生児の低血糖症が恐い理由は、痙攣などの症状がなく、
見えない所(血管の中)で低血糖が静かに進行し脳神経細胞の発育にダメージを与えるからです。
授乳によっていずれ低血糖は正常に回復したとしても、
障害を受けた神経細胞の完全な回復は望めません。
低血糖による発達障害を防ぐには、低血糖の早期診断/早期治療は勿論の事、
それ以上に低血糖にならない様に保育管理することがいかに大事かを教えられた貴重な症例です。
(久保田産科医HPより引用)