カンガルーケアは安全指針守れる施設のみ行うべき






2012年1月20日 MT Pro



カンガルーケアは安全指針守れる施設のみ行うべきとの考えを

日本産婦人科医会の幹事が考えを明確に示しました。





カンガルーケア中に新生児の状態が急変し,

死亡や重篤な後遺症が残る事態になる事故が続いている。

関連する訴訟も起こされる中,

日本産婦人科医会は1月18日に東京都で記者懇談会を開き,

同医会幹事で葛飾赤十字産院副院長の鈴木俊治氏が

カンガルーケアがわが国に普及した経緯やその利点,

実施上の注意について解説。

「カンガルーケアをするしないにかかわらず,

正常と思われた新生児が急変する可能性は常にある。

カンガルーケア中も医療従事者による観察は欠かせない」として,

安全指針を守れない施設でのカンガルーケアは

行うべきではないとの考えを明確に示した。







有効性は十分だが安全性のエビデンスは弱い



カンガルーケアはもともと

新生児医療費の限られた南米コロンビアで,

コストをかけずに早産児を保温する工夫として始められた。

新生児集中管理室(NICU)で

1つの保育器に2,3人の児を寝かせるより,

肌を触れ合う状態で母親に抱かせて温め,

早く退院させる方が院内感染防止になり,

死亡率低下と母親の養育遺棄防止にも

つながることが実証されていたのだ。



この様子を1978年に視察した

英国の医師らがロンドンのNICUに導入したところ,

先進国では死亡率低下の効果はないものの,

母児の愛着形成に有効なことが確認された。

このメリットが広く紹介され,臨床研究が進んで,

カンガルーケアの早産児に対する有効性が確立された。





さらに,正期産児に対しても

母子の心理や発達に好影響を与えるという期待が高まり,

1996年には世界保健機関(WHO)の「正常出産のガイドライン」で

出産直後のカンガルーケアが推奨されるに至っている。



わが国でのカンガルーケアは,

1990年代後半から早産児を中心に導入され,

2000年以降は正期産児に拡大していった。

その間に事故の報告もあったが,

「カンガルーケアによって急変が増えたというエビデンスはない」

という見解が大勢を占め,

カンガルーケアは全国の産科施設で積極的に勧められてきた。



しかし2009年,新生児科医の有志が作成した

『カンガルーケア・ガイドライン』は,

正期産児に対してもカンガルーケアの有効性は

十分に立証されているとしながらも,

「安全性に関する科学的根拠が非常に弱い状態である」 と指摘。



そのため,早急に事故原因の究明を行い,

基準を策定するための調査・研究体制が必要であるとし,

その間に正期産児に対してカンガルーケアを行う施設は,

家族への十分な事前説明や機械でのモニタリング,

医療従事者による観察など,

安全性に対して最大限の配慮を行うべきとの指針を示している。







機械的モニタリング,スタッフの付き添いともに3割どまり



実際,産科の現場で,カンガルーケアの

安全確保はどのように行われているのだろうか。



ガイドライン作成前の数字になるが,

2008年に全国の産科施設を対象に,

信州大学看護学教授の坂口けさみ氏らが行った調査では,

カンガルーケアは病院・診療所の60〜70%,

助産所の95%が導入していたが,

実施基準を定めている施設は3割に過ぎなかった。

カンガルーケア中に機械的モニタリングを行っている施設,

医療従事者が付き添って観察している施設もそれぞれ3割にとどまった。



カンガルーケア中の有害事象発生は少なくなく,

チアノーゼの増強や低体温,低酸素など児の状態の悪化が確認され,

ケアを中断した経験のある施設は4割に上った。

うち2割は小児専門医療施設への救急搬送を経験していた。

急変の原因は,出生直後には分からなかった

先天異常の症状出現や奇形,不明が主だったが,

鼻腔閉塞などケア実施上の問題だった例も一部あった。



鈴木氏がデータベースで事故報告の詳細を調べたところ,

急変のほとんどは医療従事者が

母子から目を離した間に起こっていた。

報告では,どの新生児にも急変の可能性があること,

母親が自力で児の状態を観察するのは限界があること,

異常の第一発見者となることは母親にとって

障害的体験であること―が指摘されていた。







「カンガルーケアだけはやりたくない!」母親も…



2000年以降急速に広まったカンガルーケアだが,

近年は事故の報道などを受け,バースプラン提出時に

「カンガルーケアだけはやりたくない」と明言してくる母親もいるという。



鈴木氏は,カンガルーケアの利点に言及しながらも,

「カンガルーケアは推奨というより,

母親が希望する場合に行うというのがよいのではないか。

事前に十分な説明を行うことはもちろんのこと,

出産直後にもあらためて母親の希望を確認する必要がある」と説明。



「新生児が急変する可能性は常にある。

カンガルーケアを行うならば,機械的モニタリングと

助産師らによる付き添いは必ず必要で,

そういった体制が取れない環境では行うべきではない」と繰り返し述べた。

WHOの推奨はわが国の高い医療水準と矛盾する一方,

同医会幹事の松田秀雄氏(松田母子クリニック)は,

WHOの推奨は途上国も含んだものであり,

わが国の高い医療水準とはそごがあることを指摘。



「わが国の医療水準で児の呼吸や循環動態,

酸素飽和度モニターの作動を完全に確認しようとすると数10分かかり,

WHOの推奨通りに出生直後のカンガルーケアはできない。

カンガルーケアは安全性確認の後では

効果がなくなるのかについてはまだデータがないが,

推奨がどうであれ,子供を安全に育てようという視点で

考えるべきではないか」と,

安全性を軽視したカンガルーケア実施に警鐘を鳴らした。