「国推奨 母乳育児で脳障害」 宮崎の女児両親が提訴へ


産経新聞 平成23年10月26日  田中一世記者








生まれたばかりの女児が重度の脳障害を負ったのは、

病院が赤ちゃんに母乳のみを与える完全母乳栄養法を試み、

経過観察を怠ったのが原因だとして、両親が26日、

病院側と母乳栄養法を推奨する国を相手取り、

計約2億3千円の損害賠償を求める訴えを宮崎地裁に起こす。



原告側は「国の非常識な方針が赤ちゃんを危険にさらしている。

ただちに改めるべきだ」と主張している。



提訴するのは、宮崎県南部の民間病院で生まれた女児(2)の

父親(44)と母親(35)。



女児は平成21年8月20日午後3時ごろ、

帝王切開で生まれ健康状態は良好だった。

しかし、約12時間後に心肺停止になり、

一命は取り留めたが、自発呼吸もできず寝たきりになっている。



訴状などによると、同病院は新生児に

人工乳などを与えない完全母乳栄養法を採用。

母親は出産約1時間後から女児と2人で

病室のベッドに寝かされ、21日未明、

女児の体が冷たくなっているのに気づき、看護師を呼んだ。



途中、看護師からは

「赤ちゃんの手足を温めてあげてください」

と指導されただけだった。授乳などの指示はなかったという。



女児は蘇生措置を受けた後、

新生児集中治療室のある他の医療機関に搬送され、

低血糖症(極度の栄養不足)と診断された。



病院は、女児の心肺停止について原因が特定できないとして

「乳幼児突然死症候群の疑いがある」と説明。

原告側は、母親の母乳が出ていなかったにもかかわらず、

女児が心肺停止になるまでに与えられたのは

砂糖水10ccだけだった−と主張。

完全母乳栄養法に基づく新生児管理が

極度の栄養不足や体温の低下を招き、

脳障害を引き起こしたとしている。



原告代理人の日野佳弘弁護士によると、

厚生労働省は医療機関への支援ガイド(平成19年作成)で、

「良好な母子関係が築ける」などの利点を挙げ、

完全母乳栄養法を推奨しているが、

危険性について十分な説明がないという。



厚労省母子保健課は

「支援ガイドでは“状況に応じて”と断って母乳栄養法を薦めている。

そもそもガイドは(授乳方法の)紹介であり、指示ではない」と説明。

同病院は「結果については申しわけないが、

重大な過失があったとは考えていない」としている。







「国推奨 母乳育児で脳障害」 宮崎の女児両親が提訴へ





厚生労働省が推奨する「完全母乳栄養法」は何が利点で、

どこに危険が潜んでいるのだろうか。







厚労省が平成19年に作成した「授乳・離乳の支援ガイド」は、

母親に母乳育児を意識させるよう病院に促しており、

分娩から退院までの間は

「赤ちゃんが欲しがるときにあげて自律授乳を習得する」

などを目標として紹介している。



母乳育児の利点は人工乳による育児に比べ、

子供の後の肥満や糖尿病の発症リスクが低く、

良好な母子関係が形成されるとする。

専門家の多くもこうした利点は認めている。



しかし、個人差はあるものの、

母親の母乳は出産24時間以内は出ないか、

出てもにじむ程度のケースがほとんど。

完全母乳栄養法を薦める助産師らの間では

「赤ちゃんは母親の胎内から

“3日分のお弁当と水筒を持って生まれてくる”から大丈夫」

と考えられている。

が、母乳の量や新生児の体温などを十分に確認しないまま、

母子を病室に長時間置いた結果、

新生児が低血糖、低体温の状態に陥り、

脳障害を負うケースは全国で相次いでいる。



新生児の栄養・体温管理に詳しい

久保田産婦人科麻酔科医院(福岡市)の久保田史郎院長は

「生まれたばかりの赤ちゃんにとって

38度前後の胎内から空調の効いた病室は寒すぎるし、

へその緒も切られ栄養が遮断されている」と指摘。

「3日分のお弁当説」については「科学的根拠に乏しい。

母乳が出始めるまでの栄養管理をしないと赤ちゃんは飢餓状態になる。

完全母乳栄養法についてリスクの説明がない

支援ガイドを策定した厚労省は無責任だ」と批判している。



山形大学医学部の早坂清教授(小児科学)も

「完全母乳栄養法の利点のみが強調され、

危険性を正しく両親に伝えていない医師がほとんどだ」と指摘。

「利点と欠点を説明し、承諾を得たうえで、

注意深く観察しながら行う必要がある」と話している。







「わが子と同じ事故にあわぬよう」両親ら「家族の会」結成へ 
母乳育児損賠訴訟






病院が完全母乳栄養法やカンガルーケアを優先して

経過観察を怠った結果、新生児が脳障害を負うケースが相次ぐ中、

国などに損害賠償を求める訴えを26日に起こす

宮崎の女児(2)を含む子供6人の両親らが、来月末をめどに

「家族の会」を結成することが分かった。



両親らは「これから生まれてくる赤ちゃんには、

わが子と同じ事故にあわせたくない」との思いで、

再発防止を国などに働きかけていくという。



宮崎の女児の両親が提訴する病院は、母乳育児を推進しており、

赤ちゃんと母親2人きりで過ごさせる「母子同室」や、

母乳のみを与える「完全母乳栄養法」、

母子のスキンシップを重視する「カンガルーケア」に

積極的に取り組んでいる。



この女児も出産約1時間後からほとんどの時間を

母親(35)と病室で寝かされた末、心肺停止となった。

母親は女児に母乳を吸わせようと試みたが、ほとんど出なかった。

帝王切開の鎮痛剤や出産の疲れ、

高熱の影響で強い眠気にも襲われていたという。



病室では女児の体温測定は行われず、

赤ちゃんの呼吸の異常を感知する無呼吸アラームなども

設置されていなかったという。

女児が泣き止まないため、看護師が一時、新生児室に連れていったが、

「手足が冷たいから温めてあげてください」と

母親にすぐに返されたという。



両親は、安易な母乳育児推進に警告を発している

久保田産婦人科麻酔科医院(福岡市)のホームページを見て、

同様の事故で脳障害を負った子供たちが多数いることを知った。

同医院や弁護士を通して「家族の会」の結成に動き出した。



現在参加を予定しているのは宮崎の両親のほか、

長崎、福岡、奈良、愛媛、神奈川の各県に住む計6家族。

家族らは、厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」について、

低血糖症(栄養不足)や低体温症に対するリスクの説明や

安全対策が不十分だとして見直しを求めていく方針。



宮崎の母親は「これを機に、安全なお産ができる病院が1つでも増え、

同じ事故が繰り返されないでほしい」と訴える。

家族の会を支援する日野佳弘弁護士(福岡県弁護士会)は

「赤ちゃんの脳障害が、原因不明の乳幼児突然死症候群で

片付けられているとみられるケースが全国に多数ある。

そのうち相当数が栄養・体温管理を怠った末の事故ではないか」と話している。