日本のお産は安全ではない






2008年10月に発行された

第49 回 日本母性衛生学会総会 学術集会抄録集 Vol, 9 No,3 

に掲載された教育講演記録をご紹介します。







教育講演〔5〕

日本のお産は安全ではない

国立成育医療センター周産期診療部産科医長 久保隆彦



いつから「日本のお産は安全」という神話が流布されたのか?







お産の現場で毎日働く多くの周産期医療従事者にとって

予測できない突然起こる分娩時大量出血、

母子救急を経験する度に「お産は怖い」ことを実感する。





しかし、妊婦は、脳天気なマタニティー雑誌や

宗教にも近い自然分娩回帰カリスマ達によって

分娩の持つ怖さはオブラートに包まれ

快適なお産のみかのように洗脳されている。

こういったことが間違った認識を生み出しているのだろう。





確かに、日本の母体死亡率は戦後急速に減少し、

世界最高のレベルとなった。





この快挙の理由は、分娩場所が自宅・助産所から

診療所・病院に移行したこと、

日本特有のコンビニ産科

(開業医産科医と看護師による全国どこでもアクセスが良いお産形態)と

一次施設に起こった母体急患に対して

速やかに搬送可能な二次・三次施設の余裕に他ならない。



だが、その素晴らしいシステムが危機に陥っている。







「看護師内診問題」で多数の一次診療所が分娩から撤退した。

「福島県立大野病院事件」で産科のマンパワーが激減した。







この2つのことにより、一次・二次分娩施設は姿を消し、

周産期医療体制ピラミッドは崩壊し、

三次施設に分娩は集中し、本来三次施設が担わなければならない

ハイリスク妊娠・分娩あるいは母体救急受け入れが困難となった。





しかし、今日本は奇妙な方向に向かおうとしている。

産科医が減少すれば助産師の権限を強化し、

助産所で分娩をおこなえばよいという政策である。





戦後のあの高い妊産婦死亡率、

暗黒の周産期医療成績の象徴であった

助産所分娩に戻ることは狂気といえる。

まだ10年前なら助産所からの

緊急母体搬送を三次施設が受け入れたので、

考えられるオプションだったが、

当センターでも助産所からだということで

優先的な搬送受け入れはできず、

これは全国の基幹周産期センターも同様である。





さらに、日本産婦人科医会が行った

助産所から母体・新生児搬送された

母子の予後は悲惨なものであった。





医療が不可能な施設での分娩は危険といわざるを得ない。

しかも、世界で最も安全に

助産所分娩を行っているオランダでのリファー率

(助産所でリスクを見つけ病院に紹介する率)は

50〜70%と高率であるが、

わが国の助産所からのリファー率はわずか7%に過ぎず、

日本の助産所での

妊婦のリスク認知率・発見率は低いといわざるを得ない。





演者が日本産婦人科学会で行った全国調査で、

わが国のいかなる妊婦でも

250人に1人は分娩で死に至るアクシデントに遭遇し、

その半数は大量出血によるものだった。

迅速な輸血ができない場所での

分娩を本当に妊婦が望むのであろうか。

今国民は真剣にお産について考えなければならない。